第十三話・平穏な一日

今日は比較的、平穏な一日であった。週末だったので、アルバイトが東京からやってくる予定になっていた。その準備をするのは本来私の仕事だったのだけれど、誰かが私のかわりにすべての用意をしてくれていた。とても助かった。おそらく、同期の男がやってくれたのだと思う。感謝感激である。アルバイトがくる場合は、制服や備品、書類関係をすべてそろえておかなければならなかったのだ。私はそういった説明をすべて上司から聞いていたのだけれども、実際にやるとなると別であった。もうすでに頭からその仕事に関する情報が抜け落ちていた!

それと、今日は私以外の課の人間、すべてが休みをとっていた。それだから、何かあったときに誰に助けを求めたらいいんだろうという疑問が浮上した。

事務所にはフロントの主任と私しかいなかった。この日、ホテルの従業員たちは休みをとることがたまたま多かった。お客さんの数が相当少ないに違いなかった。事務所で一人きりになることもあった。そういう場合、一番気を使うのは電話である。電話がかかって、その電話の相手に対して、すべて、「わかりません」とか、「担当者が不在です」とか、「折り返します」とか、そういう返答ですべてカタがつけばいいのだが、そういうわけにはいかなかった。簡単な電話もあったが、難しい、一人では判断しかねる電話もあったのだ。

オロオロしていても仕方ない。とりあえず、かかってきた電話には積極的に出ることにした。たまに、相手の会社名やら名前が聞き取りにくくて困ることがある。それで、これは色んな会社でよくあることだと思うが、相手の名前が聞き取りにくいときに、何度も聞き返すと相手が不機嫌になったり、怒り出すことがある。そういうときが一番、厄介である。私は電話のセールスを何度かしたことがあるが、こちらから誰かにかける場合は、そういう気遣いは一切必要ない。とにかく電話をかけまくるだけである。一方で、電話を受けるというのは、一応、その会社を代表しているということもあるし、ものすごく気を使い、ときにはストレスも相当ためこむものだということに気がつく。だから、世の中におそらく大勢いるであろう、会社の事務の仕事をしている人たちというのを私は心の底から尊敬するのである。すごいなあと思う。

昼過ぎに飯を食いたくなったが、従業員食堂に向かうタイミングを逸した。アルバイトはいつやってくるのだろうか。常務がしばらくしてやってきて、窓の外を眺め、「あれはアルバイトを乗せるバスじゃないか? もうちょっとここにいて待っていてくれないか」と私に言った。とすると、私はいつ昼食を食べに行かれるんだろうという疑問が湧いた。仕事は頑張るつもりでいたが、腹は減っていた。いや、飯でも食べて少し息抜きをしたかったのかもしれない。

午後の1時半過ぎに私は意を決した。たまたま、フロントの主任が事務所に居合わせたので、主任に飯を食いに行くことを告げて、従業員食堂に向かった。アルバイトがきたら、従業員食堂に電話をかけてもらう予定であった。

昼食は15分ほどで食べた。美味いもへったくれもあったもんじゃない。味を確かめる余裕もなかった。ゆっくりと味をかみしめるよりも、はやく事務所に戻って待機していなければならないという使命感でいっぱいだった。このホテルに到着して仕事を始めてからはやくも二週間以上の月日が過ぎていた。ようやく使命感のようなものが芽生えてきたような気がしていた。いや、ただ単純に、「アルバイトに制服や備品を渡す仕事」というのは、私の役目になっていたので、それを怠ると、あとでガツンと痛い目にあいそうな気がしていたので、なるべく、そういった自分のミスによる過失というものは避けなければならないと考えていたのだ。

もともと休憩は一時間という契約だったのだが、実際のところ、そういうわけにもいかなかった。普通の事務の派遣なんかだと、いつでもきっちり休憩を一時間とれるようなところもあるのだが、さすがにリゾバである。そして、休憩のことはあまりとやかく言うつもりはなかった。

午後、私は何をしていただろう。あまりよく覚えていない。納品書をまとめること、そして、納品書の合計額をエクセルに入力すること、それくらいだったか。とにかくたいしたことはしていない。5時半過ぎにようやくアルバイトが事務所にやってきた。彼らに制服・備品を手渡す。やれやれ、これで私の役目も終わりである。ハラハラする瞬間もある一日だったが、それでも、平穏な一日だったと感じた。